2015/09/13

シャワーと、オペラと、フレディーと





オードリー・ヘップバーン主演の映画『ローマの休日』に続いて、私が好きなローマを舞台にした映画は、ウッディ・アレン監督の『ローマでアモーレ』。

『ローマでアモーレ("To Rome with Love")』は、ローマに住んでいる人たちと、旅行に来た人たちの人間模様を描く、(ロマンティック)コメディー。日本の映画館で、上映中に観客の笑い声が聞こえていたのが、今でも記憶にあります。日本人を声が出るほど笑わせてしまうくらいの、痛快なコメディー。

ここでは、特に笑いを多いに提供してくれる2人の登場人物—ジェリーとジャンカルロ—と爆笑シーンについて紹介します。

奇抜過ぎる演出で評論家と世間に干されたアメリカ人のオペラ舞台演出家、ジェリー(演:ウッディ・アレン)は、 ローマに旅行に行った娘がイタリア男と電撃結婚をするということで、妻とともにローマにやってくる。そして、娘の婿となるイタリア男の家に訪問した際に、その父親で葬儀屋のジャンカルロ(演:ファビオ・アルミリアート)に出会う。

ジャンカルロは「ちょっとシャワーを浴びてくる」と風呂場に向かう。すると、オペラを歌う素晴らしい歌声が聞こえてくることにジェリーは気づく。ジャンカルロが、シャワーを浴びながら歌っているのだ。ジェリーは衝撃を受け、新たな夢を抱く。ジャンカルロ主演のオペラを演出するぞ、と。

【クリッププシーン】シャワー越しの歌声に胸打たれるオペラ演出家



一緒にオペラ界で一花咲かそうと、乗り気ではないジャンカルロを説得し、オーディションを受けさせたジェリー。だが、審査員の前でのパフォーマンスは散々なものであり、ジャンカルロもジェリーも落ち込む。なぜ、あんなに素晴らしい歌声だったのに…とジェリーが残念がるところ、周囲は「シャワーを浴びながら歌っている時は、誰だって歌がうまくなるもんよ」とあしらう。

「ああ、そうか。確かに、僕もシャワーを浴びている時は、歌がうまくなる気がする…」と納得するジェリー。しかし、それでは終わらなかった。

ジャンカルロにシャワーを浴びながら、歌ってもらえばいいんだ!と、"シャワーオペラ"の計画を立てる。

ジェリーに乗せられて、観客が集まったミニコンサートで歌うこととなったジャンカルロ。舞台には、透明ガラスのシャワー室が運ばれ、タオルを腰に巻いたジャンカルロが登場。そして彼はタオルを外し、体を洗いながら、熱唱する。大事な部分はちゃんとガラスが白く塗られているので隠れている。最初は怪訝に思う観客も、彼の(シャワー越しでの)歌声に感動し、拍手喝采となった。

【クリップシーン】観客の前でシャワーを浴びながら熱唱する全裸の男


((ちゃっかり真面目に聴き入る観客の姿にも笑えてしまう!))

調子に乗ったジェリーは、ジャンカルロを主演としたオペラ『道化師』(ルッジェーロ・レオンカヴァッロ作曲)を演出し、歌劇場で公演。周りの役者たちが 普通に演じる中、ジャンカルロはシャワーを浴びながら歌い、演じるという奇妙過ぎる演出で、ジェリーはローマの評論家からも酷評される。一方のジャンカルロは評論家から大絶賛を受けた。。。

【クリップシーン】シャワーオペラのクライマックス!



というもの。

由緒正しきオペラを、全裸の男性を使って、ここまで面白おかしく仕上げたウッディ・アレンに脱帽。ほぼ、ブラック・ジョークに近いが・・・

さて、実際のオペラ『道化師(I Pagliacci)』とはどういうストーリーなのかというと、他のオペラの例に漏れず、ドッロドロの憎愛劇となっています。

とあるイタリアの村にやってきた旅芝居一座。その中には、座長であり、劇で道化師を演じる予定のカニオ、座長の妻であり劇中でも道化師の妻を演じるネッダ、ネッダに密かに恋する醜男で、道化師の召使いを演じるトニオという者がいた。ネッダはカニオに飽き飽きしており、村にやってくるごとに逢い引きを重ねていた愛人シルヴィオと遂に駆け落ちをする約束をした。ネッダに愛の告白するも振られたトニオは、腹いせにカニオに告げ口をする。妻が駆け落ちをしようとしていると知ったカニオは、「愛人の名前を言え」とネッダに迫る。拒むネッダ。仕事なんてしていられる状況ではないが、もう芝居の開始時刻は迫っている。カニオは役者として、"道化師"を演じねばならない。道化の衣装をつけ、泣きながら顔に白粉を塗り、支度をするカニオ。

劇が始まり、道化を演じるカニオは舞台の世界と現実の世界の区別がつかなくなってきた。なぜなら、劇中でも、先ほど起こったことと同じシチュエーションが繰り広げられ、道化師演じるカニオは、道化師の妻演じるネッダに「愛人の名前を言え」と迫っているからだ。演技に自然と熱に入るカニオは、ついに途中で道化師としてではなく、カニオ自身として激怒する。観客はカニオの心情にはもちろん気づかず、迫真の演技だと感心する。しかし、カニオの暴走は止まらず、ついにネッダを観客の前で刺し殺してしまう。そして、観客の中に隠れていたネッダの愛人が飛び出してきたところ、愛人も殺害する。動揺する観客を前にカニオはこう締めくくる。「喜劇はこれで、終わりです。」

と、劇中2人も死んでしまう、悲劇的なストーリー。何で人を殺しておいて、締めの言葉が 「喜劇はこれで、終わりです」なのか?というと、もともとは、カニオ演じる道化師が、妻の愛人を突き止めて懲らしめて終わり、という流れになるはずだったから。

このオペラ『道化師』のストーリーを踏まえた上で、映画『ローマでアモーレ』内で繰り広げられるシャワーオペラの演出を考えると、全く持って悲劇を喜劇に変えてしまった、と言ってもいいけれども、ある意味、オペラの核心をついているのではないか?とも考えられるのです。

というのも、 オペラというものは、ストーリーがどんなものであれ、必ずコメディーの要素が入っているのではないかと思うのです。とことん大げさに、非現実さを誇張することによって、第三者である観客に少し滑稽に映るようにしているのではないか、と。 劇中で起こっていることは、所詮他人事であり、ある観客にとっては、笑えてしまう喜劇として捉えられることもあるのではないか。だって、実際に、色々ツッコミたくなるところ、たくさんあるもの。

ウッディ・アレンによって見事コメディーと化けたオペラ『道化師』の中での有名なアリアは、妻に裏切られたカニオが、「それでも舞台に立って、観客を笑わせねばならない」と歌う『衣装をつけろ(Vesti la giubba)』。3大テノール歌手の一人、ルチアーノ・パヴァロッティによる歌が有名。

【動画】ルチアーノ・パヴァロッティによる『衣装をつけろ』(一般バージョン)



((この映像だけ観ると、すごく泣けてくる・・・・))

実は、この曲『衣装をつけろ』の最後の部分が、ロックバンド、クイーンのある曲に使われているのです。

それは・・・"It's a Hard Life"という曲。

【ミュージックビデオ】Queen "It's a Hard Life"


冒頭の"I don't want my freedom. There's no reason for living with a broken heart.(自分の自由なんて欲しくない。傷ついた心を抱えて生きていく理由なんてないさ。)" という部分が、オペラの最後の部分と全く同じです。

ちなみに同じメロディーの部分でオペラでは、"Ah, ridi, Pagliaccio, sul tuo amore infranto.(笑え、道化師よ。お前の愛の終焉に。)"と歌われています。

"It's a Hard Life"の作詞作曲は、フレディー・マーキュリー。"Bohemian Rhapsody"とかクラシック要素のある、ロックでポップな曲を生み出すフレディーは、クラシック好きが高じてか、遂にオペラのメロディーを使っちゃいました。

ミュージックビデオも、元ネタを尊重して(?)か、仮面舞踏会にて、フレディーが"フレディー劇"を繰り広げます。衣装も舞台も演出も全てがやり過ぎで、奇妙で、ちょっと悪趣味・・・なミュージックビデオは、間違いなくフレディーのアイディアだろうな。やり過ぎ感が前面に出ていて、おかしくて笑ってしまう。(そして、安定感のあるコミカルな動きを披露してくれるフレディーにも、いつも通り笑ってしまう。)

オペラってつまらなさそう、曲調も眠くなりそう・・・と敬遠する人もいるかもしれないけれど、オペラって、もっと観てて聴いてて、楽しいもの。劇中の役者たちが大真面目に演じていても、ツッコミ場所があれば、勝手に笑い飛ばせばいい。そうやって楽しむのが—少なくとも、現代においては—オペラ鑑賞の楽しみ方ではないのかな、なんて思います。

【関連ブログ】

プッチーニオペラに登場するダメ女から学んだこと  
イタリア男の実態(R指定)

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